「ネット族議員」化する松下政経塾出身者

有害サイト規制の要所で見かける松下政経塾出身の議員


今年六月に成立した有害サイト規制法には、松下政経塾に関係する国会議員が与えた影響が大きい。私の言う松下政経塾に関係する議員とは、同塾出身の議員のほか、同塾出身の議員を明瞭に、かつ組織的に支持する国会議員のことを指す。したがって、2005年の民主党代表選で前原誠司を支持した民主党内のグループ「凌雲会」に所属する議員は同塾に関係する議員である。

自民・民主党で法案作成のトップは同塾関係者が務めている。自由民主党の青少年問題委員長は同塾出身の高市早苗衆院議員が務め、法案作成の「中心的な役割」を果たしているとしてオーマイニュースのインタビューを受けた。これはよく知られているところであろう。また、民主党の「違法・有害サイト対策プロジェクトチーム」の松本剛明座長、高井美穂事務局長の両名は凌雲会に所属している。

そして国会においても同塾に関係する議員がさまざまな影響力を行使している。衆議院の青少年問題特別委員会は同塾出身の玄葉光一郎衆院議員が務めている。国会の委員長は委員会を代表し、議事の整理、秩序保持を職務としており、具体的には委員会の日時の設定、討論時間の制限などの権限が与えられている。玄葉委員長が具体的にどのような役割を果たしたかについて公表された資料に記述はないが、ある委員は法案審議の最後で「委員長の労を多とする」と発言している。そして、参議院では凌雲会所属の松井孝治議員が付帯決議案を提出し、可決されている。参議院では議案に対して修正が加えられておらず、参議院としての意思表示は松井議員提出の付帯決議だけである。松井議員は審議の際、衆議院から出席した松本剛明氏、高井美穂氏に対して積極的に質問している。言い方は悪いが、凌雲会出身者による茶番劇のようにさえ見えてしまう。

20年前に「ネットの政治利用」に論及していた松下政経塾出身者

今回の有害サイト規制法案で松下政経塾出身者が主導的な役割を果たしたのは、他の議員よりもネット社会に通じているからだと考えられる。なおここでいう「ネット」とはインターネットに限らず、パソコン通信も含む。同塾は1985年(昭和62年)に国内でのパソコン通信の実験を始め、1987年には国際的なネットワークの実験を始める。そして1988年には実際にネットワークが稼動を始めたようである。

同塾は松下幸之助が掲げた「衆知を集める」という言葉のもと、明確な目的を持ってパソコン通信を導入したのである。1989年に出版された「パソコン通信はあなたの組織を変革する」という書籍がある。著者は松下政経塾の塾生であった宇佐美泰一郎氏と木村孝氏である。この書籍によると、同塾の講義の内容をオンラインで見れるようにしたほか、海外研修に行った塾生たちの連絡手段として利用したという。著者は、パソコンに触ったこともない講師・塾生たちに「政経ネット」を広げるための苦労を語っている。

驚くべきことに、この本を読むと、著者たちがネットを政治に利用できると認識していたということにある。いわく、アメリカの地方議会の選挙にあたって、パソコン通信上で立候補者のひとりが議論に参加したという。そして議論を見て感銘を受けた人たちがおり、彼らはパソコン通信上での議論をプリントアウトして配り歩き、最終的にその候補者が当選したというものである。このパソコン通信は、もともと過疎の村を再生するために設けられたものだったという。

「ネット族議員」化はこれから


松下政経塾に関係する議員たちは、なんらかの思想を持ってネット規制に乗り出しているのだろうか。その可能性はゼロではないだろうけれど、かなり低いと思う。与野党の調整の結果、最終的には国家の介入がなくなった。町村官房長官が懸念を表明するほどだ。同塾関係者が何らかの思想に基づいて一致団結しているのなら、こうはなるまい。

ただし、サイトを評価して審査料を取るという「利権」的な部分は厳然として残っている。審査料はかなりの高額で、一社あたり100万円近くになるという。これでは個人がつくったサービスは「健全サイト」認定を受けることができない。結果として、子供向けになんらかのサービスを提供しようとするのであれば、すでに健全サイト認定を受けているサービスに対してお金を払ってやったほうが良いということになる。こうしてインターネット界は利権のピラミッドのなかに組み込まれていくことになるだろう。

パソコンやネットに詳しい同塾の関係者たちは「ネット族議員」になる力を持っている。この問題に関連するエントリのブックマークに「こういった法律の問題はいわゆるギークたちしか知らないわけで、彼らと交流のある政治家がほとんど居ない。」というという意見があったが、これは見当はずれである。参考人として国会に出席した楠正憲さんは「野党」の質問によって法文のあいまいな部分の「輪郭がくっきりした」と評価している。しかし楠さんが指していると思われる質問をしたのは同塾の関係者である松井議員なわけである。彼らはネットのことを知っている。

これから、同塾に関係する国会議員たちにどういう風にお金が流れるのか、しっかり監視していこう。

関連サイト