『ピアノの森』

立川をぶらぶらとしていたときに衝動買いをしてしまった。既刊のものは11巻、全部で5千円になった。

ピアノの森 11 (モーニングKC (1483))

ピアノの森 11 (モーニングKC (1483))

僕はこれまでピアノなんかに興味はなかった。けれどこの話は楽しめる。天賦の才をもった一ノ瀬海と、ピアニストの子に生まれ育てられた「秀才」の雨宮修平の物語として、そして僕の性的な志向でもあるバイセクシャルの物語として。


9巻に出てくる海と「冴ちゃん」の恋愛とセックスは圧巻である。


16歳になった海はマリアと名を変えストリップショーの音楽を演奏するバイトをするようになる。子供の頃から女の子と間違われやすい顔立ちだった海は女装で客を魅了し、ピアノの才能によって女性にもファンをつくる。「冴ちゃん」はその中のひとりなのである。


16歳になれば声変わりしてるだろうというツッコミはおいておいて、冴ちゃんは海を女だと信じたまま仲良くなり、ついに一緒に酒を飲みに行く。


そして夜、冴ちゃんの家で風呂すすめられたとき、海は意を決して自分が男だと告白する。海を女だと信じ込んでいた冴ちゃんはしばらく意味が分からず、海が詰め物の胸を外し股間のナニが膨らんでいるのを見て呆然とすることになる。


そしてそのあと冴ちゃんは海に押し倒されてセックスをすることになる。ここまでならば男の側が女装していた「男」と「女」のセックスで、バイセクシャルとは関係がないようにも見えるかも知れない。重要なのは押し倒された冴ちゃんのモノローグなのである。


「抵抗なんかできやしない だってあたしは・・ とっくにマリアに──恋していたから」


くどいようだがマリアとは海がお店で使っていた名前だ。冴ちゃんは男や女としてではない海という人間に恋をしていたのである。


海と冴ちゃんの仲に嫉妬をしたお店の女たちは、海が娼婦の息子であるという出自をバラし、2人の仲を引き裂こうとする。しかし最後に冴ちゃんは海を受け入れ同棲を始めることになるのである。


「あなたが何者でも・・・・ 最初からあたしは あなたにひかれていた」


この冴ちゃんのモノローグはもちろん直接的には海の出自に対するものであるのだが、自分はそこに「いかなる性であろうとも好き」だという意味も含まれているのだと考えている。