『誠心誠意、嘘をつく』

三木武吉という政治家の物語。後に首相になった三木武夫とは別人で縁戚関係もないので注意。

誠心誠意、嘘をつく 自民党を生んだ男・三木武吉

誠心誠意、嘘をつく 自民党を生んだ男・三木武吉

三木武吉はかの有名な「バカヤロー解散」を仕掛けた張本人である。


当時、米国の威光のもとで専権を振るう吉田茂首相に反感は高まっていた。しかし彼が社会党議員に対して放った「バカヤロー」という発言で内閣不信任案が成立する雰囲気ではなかった。というのも、選挙があってからそれほど時間がたっていなかったからである。自由党にいる三木らが造反すれば内閣不信任案は成立させることはできるが、再度の解散総選挙は避けたい。野党はそう考えていたのである。


しかし三木は言った。予算が成立しなければ在日米軍の活動に影響がでるため、解散は望ましくないとアメリカから申し入れがあった。それゆえ不信任案が可決すれば吉田内閣は解散せずに総辞職する、と。たしかに解散せずに辞職して新たな首相を選ぶことは憲法上可能だが、アメリカからの申し入れ云々はまったく根拠がなかった。


三木は吉田内閣を追い詰めるために、大嘘をついて野党に不信任案を提出させたのである。その執念は凄まじい。


「嘘つきだと言われているが、国民を騙したことはない」──三木はのちに演説でそう言ったという。実際のところどうだったのかは知らないが、この本を読んだ限りでは、たしかに国民を騙した政治家の類ではないように思えた。