「安らかな死」という幻想を食い物にした犯罪

自殺サイトで誘い出した者の口をふさいで殺害していた男が逮捕された。前上博、36歳。楽に死ねるはずのものが苦痛に満ちたものとなったとき、被害者たちは何を思ったのだろうか。

そもそも楽にこの世から消え去ることなどできない。死とは人間のすべての細胞が死んだ状態ではない。死とは人間としての機能が停止し、再び活動することがなくなった状態だ。

捨てられた死体が腐敗し、微生物によって食い尽くされるまで、個々の細胞は生きている。表情を歪ませる力さえ失っている「死体」のなかで、生き残った細胞が何を「感じて」いるのかなど知る由もない。

安らかな死という幻想を追い求めて集団自殺を図る人間がいる。そして今回、その幻想を食い物にした犯罪が起こった。