「嫌儲」と「疎外されたネタ生産」


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2ちゃんねる系のまとめサイト、出版が中心の話です

2ちゃんねる系のまとめサイトや出版は嫌われるのは、コミュニティの参加意識を無視することが最大の原因である。僕はそういうふうに考えている。簡単に言ってしまえば、編集・出版過程において書き込みに参加したたちの感情や思い入れが無視されるということである。
僕も自分が匿名で書き込んだスレッドが2ちゃんねる系のブログに紹介されたことがある。そこで感じたのは、レスの抽出の仕方にはブログの運営者の主観が出ているということである。もちろん編集の際に主観が混ざるのはやむを得ないことである。しかし、その編集過程はブラックボックスである。もしこれが投票による「人気のあるスレッド」が紹介されたというであれば、不本意だとは感じず、むしろ自分の参加したスレが高評価だったということで喜びすらしたかも知れない。あるいはスレッドそのものの選定はサイト運営者の意思によるものであったとしても、そのなかで一番笑えたレス、感動したレスに投票できるのであれば不本意だとは思わなかったかも知れない。
しかし現実の2ちゃんねる系ブログに対しては、どうしても不本意だという気持ちが抑えられなかった。残念ながら僕が2ちゃんねるに書き込んだレスが書籍に掲載されたことはないが、仮に不本意な形で引用されたまま出版にまで至ったら、不本意さを通り越して怒りを感じたであろう。怒りの本質は、ネタを生み出すことによる喜びが踏みにじられることによるものである。
これは左翼用語を使うなら「疎外」だ。
2ちゃんねる系ブログや出版の問題で「儲け」の部分を争点とすべきではないという意見がある。この論者によれば、他人が儲けることを攻撃するのは、資本主義というものを理解していないというのである。
しかし、ことの本質が「疎外」であるならば、嫌儲は、きわめて明瞭に、モノ(ネタ)を作り出すことの喜びを奪った「資本主義」に対するアンチテーゼとして捉えることができる。すなわち「嫌儲」は骨の髄まで反資本主義的であると言えるのだ。彼らに対して、いまは資本主義の世の中なんだから……などとしたり顔で語ってもお話にならない。有無を言わさず徹底的に弾圧する側にまわるか、疎外の問題に対して真摯に向き合うかである。
2ちゃんねる系のまとめサイトや出版は、これまでのような編集者による編集がなじまない世界である。従来の出版物であれば執筆者と編集者の一対一の議論が可能だった。
最近、漫画家と編集者との対立が言われている。しかし、いくら対立があったとしても、漫画家の側が編集者との話し合いに加わることすらできないということはありえない。
従来の出版物のなかでインターネットの編集方式に一番近いものがあるとすれば「読者投稿欄」であると思われる。これは投稿されたハガキに対して、編集部が採用・不採用を自由に決めている。これは、投稿者は編集者の意のままにされていたと言えるだろう。
だがこれは編集部がコンテンツを「生み出す」段階から参加しているのである。だからこのシステムによって、投稿者がネタを生み出すことの喜びを奪われたとは感じない。あくまでも生み出したネタが評価された、されなかったという苦しみである。
2ちゃんねるにおいては、自分なりにスレの空気を読み、そのうえで自分の意見を書き込む。すなわち、スレッドの流れそのものを自分で生み出そうとする意図が働いている。それがあとから来た第三者によって好き勝手に編集され、あげくのはてに出版されてしまえば、そこに「疎外」を感じてしまうのは当然のことと言えよう。 
もちろん、2ちゃんねらーの手前勝手な意見をすべて呑んでいたら「商業出版」の体をなさないだろう。どんなに盛り上がっているスレッドであっても、参加しているのはせいぜい数千人であろう。それは数十万、数百万部単位で行われる出版とはまったく性質を異にするものだ。
また、スレッドに参加している人間は、多少なりともそのスレッドに対する愛着が生まれるであろう。したがって、スレに参加している人間はどのスレを出版すべきかということについて公正中立な判断ができない。したがって、そもそもどのスレッドを出版するかという部分においては、スレッドに参加している者の意見を聞いていたら基準がブレる。編集者・出版社の判断によって出版するかどうかを決めるべきなのだ。
また、どのレスを引用すべきかということについては スレッドへの参加者がそのテーマに対して持っている考えによって大きく見解が変わる。それに自分の意見に近いものほど、印象に残るからだ。どんなに公正中立になろうとしても「自分の意見に対して有効であると思える反論」を重視してしまう嫌いがある。そして自分が重要だと考える論点が掲載されなかった場合、それは強い不満となるだろう。まったく違う意見の持ち主から話を聞いてレスを選んでいったら、ほとんどのレスが掲載されることになる。出版としての体をなさなくなる。
しかしそうは言っても、技術的な改善、そして意を尽くしたコミュニケーションによって、「嫌儲」を「疎外」から解放すべきだ。まず、出版されると決まったら出版の対象となるすべてのログを公表する。そして各レスの脇にはチェックボックスを表示し、笑えるレス、感動したレスなどに投票できるようにする。もちろん、投票結果を不満に思うものもいるだろうが、それでも編集者の独断(と思われているもの)よりは正当性を持つであろう。そして編集者・出版社はその投票結果を見ながら編集をしていく。どうしても倫理上問題があって掲載できない部分については、その旨きちんと伝えていく。そういうことである。